川村 悟士 氏 - キャリアインキュベーション | ハイクラス・エグゼクティブの転職・求人情報

EXECUTIVE INTERVIEW

投資先経営人材インタビュー

川村 悟士 氏

株式会社アシロ CFO (2022.03.02)

https://asiro.co.jp/

1984年、大阪府生まれ。UBS証券株式会社、マッコーリーキャピタル証券会社などを経て2017年4月に株式会社アシロ入社、CFO就任。2018年1月より取締役に就任。

J-STARの投資先である株式会社アシロは、2021年7月20日に東証マザーズ市場への新規上場を果たした。新規に上場するためには、事業の収益性だけではなく、経営の健全性や内部管理体制の整備など東証の求める様々な基準をクリアしなければならない。新規上場をリードしたのはCFOの川村悟士氏である。UBS証券、マッコーリーキャピタル証券、社楽パートナーズなど金融機関数社を経てCFOとしてアシロに入社し、上場を果たした川村氏へのインタビューを実施した。

[1]企業の紹介、今後の展開について教えてください

弊社は現・代表取締役社長の中山が2009年に創業した会社です。創業当初は他社商材の販売代理を主に行っており、上場企業で塾メディアを主に運営されているイトクロ社が運営されていた「お助け相続ナビ」というサイトの広告を代理販売した際に、弁護士のネット広告に対するニーズの強さを実感したそうです。その後、「お助け相続ナビ」をイトクロ社が他社に売却し、運営方針が大きく変わったのを受けて、2012年にリーガルメディア事業を立ち上げました。現在はそのリーガルメディア事業をコアとして、派生メディア事業、リーガルHR事業の3つの事業を手掛けています。

リーガルメディア事業は弊社の売上の7割を占める主力事業で、法律問題に悩みを抱える方とその分野の弁護士を結びつけるポータルサイトを運営しています。「離婚弁護士ナビ」「相続弁護士ナビ」「交通事故弁護士ナビ」など分野ごとに独立したバーティカルサイトとなっており、法律事務所から月額定額で広告料を頂く形で運営しています。競合が弁護士個人の広告を掲載しているのに対して、弊社は法律事務所単位の広告を掲載しており、より高いARPU(一顧客あたりの売上単価)を頂戴している点が特徴となります。その分広告効果をシビアに見られる部分がありますが、単価の高さを活かして売上原価の部分にしっかりとコストを掛けることで安定的な集客を実現し、取引先の期待に応えられるよう日々努力しています。派生メディア事業はリーガルメディアから派生した、法律事務所以外を広告主とするメディアです。「離婚弁護士ナビ」から派生して浮気調査の探偵をご紹介する「浮気調査ナビ」や、「労働問題弁護士ナビ」から派生して労働環境の改善を望む方の転職を支援する「キャリズム」などの媒体があります。リーガルHR事業では、弁護士に対して法律事務所や企業の法務部門への転職支援を行っています。リーガルメディア事業で法律事務所の集客支援を行っていますが、集客が出来ると次は弁護士の人手が足りなくなり、弁護士の紹介をして欲しいという顧客ニーズが強かったことから開始した事業となります。

今後の展開としては、引き続き3事業を成長させつつ、より大きなマーケットを取りに行くための新事業を創出していきたいと考えています。例えば、弁護士ドットコム社が電子契約システムを開発したように、弊社も弁護士関連事業で培った知見やネットワークを活かして新たなサービスを開発していきたいと考えています。

[2]自己紹介をお願いします(現在に至るまでのキャリアの変遷と転機について)

私自身は全くエリートでないので恐縮ですが、これまでの変遷についてお話したいと思います。私は2007年に中央大学法学部を卒業し、不動産投資ファンドのパシフィックマネジメントに入社しました。当時、不動産投資ファンド業界は成長産業だったのと、日経プレジデント誌に取り上げられるほど高かった平均年収を魅力に感じて入社しましたが、翌2008年にリーマンショックが起こり、2009年に会社更生法の適用申請を行い、新卒2年目で倒産しました。業務内容としては不動産のバリュエーション(価値評価)を行っていましたが、不動産のキャッシュフローは底堅さがある一方でそれゆえ個人としての見立てや付加価値に限界を感じるところもあり、キャッシュフローにボラティリティがあって見立てがより重要になる企業のバリュエーションに挑戦してみたいと考えました。ただ、2009年頃は金融恐慌と言われる環境だった為、地力をつける必要性を感じて仕事の傍ら主に会計の勉強をし、米国公認会計士試験に合格するなどしました。その後、2011年にM&Aブティックファームの社楽パートナーズに入社しました。社楽の当時の上長は外資系金融出身者が多く、彼らと会話する中で刺激を受けて大型案件に携われる外資を志向するようになり、2014年にマッコーリーキャピタル証券に転職しました。マッコーリーではM&Aアドバイザリーとカバレッジを兼務していましたが、2015年に組織再編により所属チームが消滅し、UBS証券に入社しました。UBSではカバレッジとして金融機関や運輸セクターを担当していましたが、ある日、社楽時代の先輩から連絡があり、アシロの代表に会ってみないかと声を掛けてもらいました。その先輩は、アシロの代表がJ-STARへ株式を売却した際にアドバイザーとして関わっており、当時は転職活動を全く行っていませんでしたが、会ってみると代表の中山に魅力を感じ、中山からもぜひ来てもらいたいという声を掛けてもらったのが2017年に入社した経緯となります。

[3]なぜ今の会社/ポジションを選択されましたか?

プロフェッショナルファームでキャリアを積む中で、漠然と「いつかはベンチャーも良いかもしれない」と考えるようになっていました。新卒で入社したパシフィックマネジメントが、不動産ファンドでありながらも、一部上場企業で事業会社だったので、事業会社ならではの良さを何となく感じていました。例えば、プロフェッショナルファームでは同僚はライバルという面がありますが事業会社の同僚はまさに仲間という感覚があることや、長期的な視点で仕事を進めやすいといった点です。また、プロフェッショナルファームの場合、数か月単位で案件が変わり、一つの企業との関わりが薄いため何かを築き上げたという実感を得られず、次第に事業会社で長く働いて何か形に残したいと考えるようになっていました。そんな時に出会った中山が魅力的で、かつCFO未経験であるにも関わらず誘ってくれました。当時、本当に上場出来るかは未知数でダウンサイドリスクもありましたが、それ以上に重視していたのが一つの企業で長く勤めて何か形を残していくことであり、それにあたっては代表との相性が最重要と考えており変なことにはならないだろうと感じることが出来た為、特に転職活動もせず入社を決意しました。

[4]経営者に必要なメンタリティ、スキル、経験とは何でしょう?

色々な経営者がいて色々なやり方があるので一概には言えませんが、唯一共通して必要なのは「やりきること」だと思います。短期で挫折してしまうと、物事を成し遂げる姿勢が身につきません。例えば弊社は、2019年の上場を当初目指していましたが、J-STARから投資を受けた時のスキームについて東証から指摘を受けて、一旦白紙に戻ってしまいました。この時、本当に上場できるか確信が持てなくなった一部従業員の退職も発生しましたが、自身は中山やJ-STARの信頼に応える為に白黒つくまで最後までやりきろうと考えていました。

[5]これらのスキルなどをどこで手に入れたのでしょうか?

新卒で入社したパシフィックマネジメントの子会社社長から影響を受けた部分が大きいと思います。彼はパシフィックマネジメントが倒産した後、色々な会社から誘いがあったと思うのですがすぐには退職せずに敗戦処理を行い、最終的に米系不動産会社へその子会社の売却が完了するのを見届けてから退職され、現在は大手証券会社の役員を務められています。当時はリーマンショックで業績が悪化し、賞与が支給されない状況でしたが、その方はまだ経済基盤の安定しない新卒に少しでも配慮したいと思ったのか、自腹で賞与を払うといった普通ではない対応も行っていました。厳しい状況下で真っ先に船を降りるのではなく、人間味のある対応で部下をケアしながら、最後までやるべきことをやりきった姿はまだ社会に出て間もない私の心に強烈に残っており、及ばない部分が大きいものの影響を受けていると思います。

[6]過去に体験した最大の試練やストレッチされたご経験について教えてください

肉体的・精神的に最も厳しかったのは前職の証券会社時代です。今は外資系証券でも働き方改革が進んだと聞いていますが、当時はまだハードワークをする文化で毎日午前3時まで仕事をして9時に出社し、土日も仕事をしていました。それまではどんな上司でも関係性を作れてきたと思っていますが、人生で唯一合わないと感じたエキセントリックな上司に巡り合ったこともあり、精神力が鍛えられたと思います。前職以外では、弊社での上場準備だと思います。東証の上場審査は厳格で、法令遵守、コーポレートガバナンスや内部管理体制が健全でなければ通りません。私が2017年4月に管理部門第1号社員として入社した時、社会規程で言えばまだ取締役会規程と就業規則の2つの規則しかなく、全く何も無い状態でした。2019年10月期の上場を目指していたので、逆算すると、半年後の2017年10月までには上場企業として求められる40件以上の規程を策定して現場に啓蒙し、その後1年かけて現場にしっかりと浸透・徹底させなければなりません。上場準備の実務経験はありませんでしたが、主幹事の証券会社と都度相談し、現場にヒアリングを行いながら、実務実態に合わせたルールを一つひとつ作り上げていきました。大変だったのが現場への浸透・徹底でした。理解してもらえるように、重要な要素をピックアップして都度周知啓蒙を行い、それでもルールどおりに業務が進められない時には厳しく叱責することでその重要性を伝えるという事もありましたが、現場としても上場に協力したいという思いがきちんとあったことで最終的には社内全体に浸透させることができたと思います。

[7]ファンド投資先企業で働く際の特徴について教えてください

代表と同等かそれ以上に数値を気にする株主がいるというプレッシャーはありますし、彼らに対して説明責任を果たさなければなりません。しかし、彼らの関心は原則非常にシンプルで、なぜ数値が良いのか・悪いのかです。自分自身が納得できる回答をしっかりと現場から吸い上げた上で、きちんと説明すればご理解くださるので、コミュニケーションが大変だという感覚はありません。また、業績が好調であれば強く関与されることはなく、私の場合は入社直後こそ密にコミュニケーションをとっていましたが、幸運なことだと思いますが半年経過した頃には基本的に月一の取締役会でコミュニケーションを取る形になっていきました。

[8]CFOとなった今、何を成し遂げたいとお考えでしょうか

上場して多くの株主に投資頂けるようになったのできちんと株価を上げていくことと、従業員も増えたので彼らが入社して良かったと思える会社にしていきたいと考えています。その為には、アシロが目に見えて成長することが大切で、バックオフィスの立場ではありますがM&Aなど自身のバックグラウンドを活かして会社の成長に貢献していきたいと考えています。また、従業員の長期的な勤続をサポートする諸制度の導入を現在進めています。年金制度(DC)、従業員持株会、借上社宅などの制度を順次導入することで、従業員が不安無く働ける会社にしていきたいと思っています。

[9]最後に、マネジメントポジションを目指す方にメッセージをお願いします

自分が本当は何をやりたいのかを問いかけて、キャリアの意思決定をするのが良いと思います。最近ではサーチファンドなども登場し、これまで以上にチャレンジできる機会も増えてきていると思います。経済的な話をすれば、プロフェッショナルファームに残った方が給与は高いかもしれませんが、目先の給与減だけを織り込んで将来キャッシュフローを考える必要はなく、将来的なアップサイドも踏まえてご自身の期待値からベストな選択肢を導き出してください。

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