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EXECUTIVE INTERVIEW

投資先経営人材インタビュー

PEファンド座談会

株式会社アドバンテッジパートナーズ 、J-STAR株式会社 (2022.02.17)

市川 雄介 氏(株式会社アドバンテッジパートナーズ/パートナー):中央
2003年3月、アドバンテッジパートナーズに参加。
日本海水、カネボウ(現 クラシエ)、東京スター銀行、メガネスーパー(現 ビジョナリーホールディングス)、イチボシ、ネットプロテクションズ、おいしいプロモーション、日本銘菓総本舗(第一号案件庫や)、マテリアルグループ、ワールドコーポレーション、キットを担当。

湯本達也 氏(J-STAR株式会社/パートナー):右
2006年2月、J-STAR創業に参画。Nホールディングス(ITサービス)、paiza(IT教育)、Mattrz(webサービス・SaaS)、イッティ(健康・美容関連商品のD2C)、セクションエイト(婚活)、サン・スマイル(化粧品・美容雑貨企画販売)、アシロ(リーガルメディア:東証マザーズ7378)、NHSインシュアランスグループ(保険代理店)、日本ホスピスホールディングス(ホスピス住宅:東証マザーズ7061)、東海トリム(自動車シート製造)、アポプラスステーション(製薬会社向けセールス・マーケティング支援)、十勝(現マツザワ 和菓子製造販売)などIT、サービス分野を中心に12件の投資を実行、2社の株式上場を含む7件がEXIT。

佐竹勇紀(キャリアインキュベーション株式会社/マネージング・ディレクター):左
キャリアインキュベーションにて、プライベート・エクイティ業界(プロフェッショナル及び投資先経営幹部)の採用/転職サポートを中心に活動中。 プライベート・エクイティ ファンドの投資プロフェッショナルはMDクラスからアナリストまでを網羅的にカバーし豊富な実績がある。

昨今のプライベート・エクイティ(PE)の国内市場の拡大を背景に、PEの投資先CxOの求人が増加している。ダイナミックな企業変革を経験できること、若手の抜擢採用や未経験でのCxO採用があるために大きくキャリアアップできるといった特徴から、プロフェッショナルファーム出身者のネクストキャリアの有力候補の一つとなっている。今回は投資先CxOを採用し、評価する立場にあるPEの視点から見た投資先CxOのキャリアについて、株式会社アドバンテッジパートナーズ パートナー市川雄介氏、J-STAR株式会社 パートナー 湯本達也氏にお話を伺った。モデレーターは弊社でPE業界を担当するマネージング・ディレクター 佐竹勇紀が務めた。

── 投資先 CxOはどのような経験ができるのでしょうか?

【キャリアインキュベーション 佐竹勇紀(以下、INQ 佐竹)】:本日は宜しくお願いいたします。これまで数多くの投資先のCxOの採用や評価に携わってきたお二人に、投資先CxOというキャリアについて、ざっくばらんにお話をお伺いできればと思います。早速ですが、投資先CxOとして経験できること、投資先CxOならではの特徴があれば教えてください。

【アドバンテッジパートナーズ 市川雄介 氏(以下、AP 市川氏)】:PEは「経営の仕組みを作っていこう」という志向が強い株主なので、投資先CxOは日々私たちとともにその方法を検討したり、他の投資先の先進事例を参照したりしながら、進捗度合を随時共有しながら経営を行うことになります。

アメリカの経営者は大きく2つのタイプに分かれてきています。一つはスティーブ・ジョブスに代表される、プロダクトに精通したビジョナリー型の経営者。もう一つはダナハーからGEのローレンス・カルプに代表される、事業をポートフォリオとして捉えて、事業の成長性・収益性をシビアに見て投資・売却を行いながら株主利益を最大化させていく経営者です。前者は天才創業者の世界ですが、後者はPEに近いアプローチであり、アメリカではこちらがマジョリティと言っても良いでしょう。日本でもコーポレートガバナンス・コードが制定されて株主利益の最大化が求められる中で後者の経営への志向が高まっています。元来そうした志向を強く持つPEとともに経営を行うことは、今後人材価値が高まっていく経験だと思います。

市川 雄介 氏(株式会社アドバンテッジパートナーズ/パートナー)

【J-STAR 湯本達也 氏(以下、J-STAR 湯本氏)】:オーナー企業の場合は、オーナーが全ての意思決定者であり責任者なので、上下関係のなかでその意に沿うことが求められます。ファンド投資先の場合は、ファンドと経営者はガバナンス関係を通じたパートナーシップだと思っているので、特定の誰かの意向は関係なく当事者として企業価値向上に直結する思考や行動が求められます。つまり株主である我々や銀行に対して説明責任を果たすことが第一に求められますが、それさえクリアしていれば比較的やりたいことができるリーズナブルな環境です。経営人材においては、「事業マインド」と「説明責任」を身につけていることが求められますが、その両方をできる方は実は多くはありません。私たちPEは、株主として、事業マインドが強い人にも説明責任を求めますし、その逆もしかりです。もちろんどちらかが弱い場合に、我々がフォローすることはありますが、私たちとの対話を通じて事業マインドと説明責任の両方をハイレベルで培うことができます。

【INQ 佐竹】:PEの投資先にはExitがある、レバレッジをかけている(LBOスキーム)ことによる財務的な制約条項がある、などの他にはない典型的な特徴がありますが、それらがCxOとしての業務に何か影響を与えることはありますか。

【AP 市川氏】:PE投資先CxOの方は、Exitまでの4~5年で成果が求められるため、時限性を持って日々の業務に取り組むことになります。大企業でも年間目標が設定されるものの、達成に対するインセンティブは大きくないのが一般的です。一方で、投資先CxOは日々目標達成への緊張感を持って業務に取り組み、達成時のインセンティブも明確なので、ご自身の力が引き出されて、成果を出しやすいですし、成長にも繋がりやすいです。

レバレッジは制約条件になることもありますが、根本的な阻害要因になるものではありません。非合理な借入を行っている訳ではないので、仮に経営判断により新規の投資を行いたいという場合は、関係者に対する説明責任を果たせれば投資が認められることも多いです。そもそも、アメリカでは効率的に資本や資金を使い、余剰は株主還元する為、債務超過を選択する上場企業がスターバックスやHPなど、それなりにあります。グローバルに見ればキャッシュフローのある会社の財務レバレッジが高いというのは、そこまで特異なことではありません。

【J-STAR 湯本氏】:「3か月で何キロ痩せる」という期間と目標を設定してパーソナルトレーナーが適切に追い込んでくれるサービスがありますが、企業に良い意味での変化を促す上でも時限性と伴走者は必要と考えます。Exitがあるという時限性を盾に、企業変革を進めやすい面もあります。例えば、忖度で組織が硬直化されていたり、昔からの悪しき文化を是正したい場合には、時限性を理由にして深く切り込む場合もあります。

レバレッジについては適切な範囲であれば企業経営における一定の規律になると考えています。またその分エクイティコストが下がるので、CxOとして活躍しストックオプション等取得する場合は、レバレッジの恩恵に預かることになり、ファンドとの利害がより近づくことになります。

湯本達也 氏(J-STAR株式会社/パートナー)

【INQ 佐竹】:企業変革は、PE投資先で経験できることがキーワードになってくるかと思います。アドバンテッジパートナーズ様では、カーブアウト案件も多いと思います。大企業の傘下にいる間は変革が進まなかった事業が、PEの傘下に入ったことで変革が大きく進んだという事例はあるのでしょうか。

【AP 市川氏】 :大企業が売却するのは、長年力を入れてこなかった事業というケースが多いです。中には優れた事業でもグループ全体の資本効率を考慮して売却するケースもありますが、そうしたケースはまだまだ稀です。大企業グループでは、リソース配分の権限は本部が持つのが一般的ですが、力を入れていない事業の場合には他の事業と比べて後回しにされがちです。例えば、採用の際にも本部の人事が担当し、その事業単体での採用には難色を示されるといった具合です。

日立ハイテクから独立したファスフォードテクノロジという会社があります。この会社は、私たちが投資をして、独立した事業体になった後、自分たちで地元・山梨県での現地採用を始めたと投資担当者から聞いています。どうすれば人を惹きつけられるのか、若手のモチベーションを高められるかなど活発に議論する中で、社員のオーナーシップや責任意識が高まっていったそうです。結果としてビジネス自体も成長し、会社全体が大きく生まれ変わりました。

【INQ 佐竹】:御社の象徴的なターンアラウンドの事例でメガネスーパーがあります。格安メガネチェーンに押されて赤字が続き、債務超過に陥っていた同社を見事に立て直しましたが、この案件において御社と経営者はどのように関わっていたのでしょうか。

【AP 市川氏】:メガネスーパーでは、元バートン日本法人社長の星崎尚彦氏をCEOに招聘しました。その際は、星崎さんに事業の立て直しに集中していただけるように、私たちの方ではマーケティング関連の業務に加え、CFO業務の中で当時脆弱だった資金調達と市場コミュニケーションも全面的に引き受けました。私自身も財務戦略担当取締役としてIR戦略を立て、それに沿って開示書類を作成するなど、業務レベルまで深く関与しましたね。投資後3年経って非常に優秀なCFOを採用できたので、彼にすべてを引き継ぎ、私たちの関与は大きく減っていきました。メガネスーパーでは、CxOクラスで際立った人材が揃い、一体感も素晴らしかったので、彼らを中心に会社が大きく変わっていきました。

【J-STAR 湯本氏】:危機を切り抜けたチームは強いですよね。環境的な要因から投資時の見立てから大きく変わってしまうこともあり、どんな投資先も程度の大小はあれど危機を経験するのでそれを乗り越えるたびに一体感が増し、わかりやすく組織が強くなっていきます。特に資金繰りに窮するなど企業存続に係わる大きな危機を乗り越えたチームは、私たちから見ても本当に強いと思います。 

【INQ 佐竹】:時限性がある環境下で必要に応じてPEの力を借りながらご自身の役割に専念し、CxOチーム一丸となって危機を乗り越えていく。そうした貴重なキャリア上の経験が詰まっているのですね。

佐竹勇紀(キャリアインキュベーション株式会社/マネージング・ディレクター)

── ここまでの総括として、投資先CxOキャリアをお勧めする点を教えてください。

【INQ 佐竹】:既に今までのお話の中で、説明責任を果たせば自由に働ける、PEファンドとの対話を通じて事業マインドと説明責任を高度に培うことができるといった投資先CxOならではの魅力についてお話いただいていますが、改めて投資先CxOとして働くことをお勧めするにはどういった点があるのでしょうか?

【J-STAR 湯本氏】:今は圧倒的に人材が不足している状況なので、チャンスだと思います。経営を経験しようと思えば、自ら起業するか、どこかの組織で上がっていくかが主流ですが、PE投資先のCxOは第三の道として面白いのではないでしょうか。私たちは未経験の方でもCxOとして採用することがあるので、チャレンジすることで大きくキャリアアップすることもできます。

【AP 市川氏】:経営者を志している方には、投資先CxOは本当におすすめです。経営とは、事業・財務・人事の3要素を俯瞰して戦略を立ててリソース配分するものですが、日本は社会全体が高齢なので昇進が遅く、事業の戦略立案は経企に、人事は現場の部課長でなく人事部に委ねられるので、3要素全てのPDCAを回すまで相当な時間がかかります。大企業の中間管理職は、扱う金額のスケール感が巨大な一方で、経営の3要素としては、投入資金や人的リソースが所与で、事業の戦略上の自由度も小さい事が散見されます。そうすると、頑張りだけが使える手段になりますし、人一倍頑張った管理職の方が経営者になりがちですが、頑張りと経営の技術はイコールではありません。

一方、PEの投資先では、比較的若い年齢から3要素すべてに携わることができます。若い時から、3要素のPDCAを回し続けることで、経営の技術を洗練させていくことができます。PE投資先企業はあまり規模が大きくないことが多いのですが、3要素は会社の規模が大きい程複雑性が高まるものの、基本的なところは同じです。そのため、将来的に大企業のマネジメントを目指している方にとっても、意義のある経験だと思います。今はまだ日本で投資先CxOから、大企業のCxOに転身した事例は多くありませんが、今後10年間で確実に増えてくると思います。

【INQ 佐竹】:CEOより一段下のCMO、CFOなどのポジションで投資先に入る方の場合はいかがでしょうか?

【AP 市川氏】:CEOクラスより責任範囲は狭くなりますが、自分の責任を全うすることでできる経験はCEOとかなり近いと思います。

── 実際にどのような方がいらっしゃるのでしょうか? その後のロールモデルも教えてください。

【INQ 佐竹】:実際にイメージしやすいように、どのような方がいらっしゃるのか教えていただけますか?

【AP 市川氏】:私たちの投資先ポートフォリオには、本当に色々な方がいらっしゃいます。例えば、32歳のCFOの方。彼は、監査法人、コンサルティングファームを経て今回初めてマネジメントキャリアに飛び込みましたが、日々アグレッシブに動き、ご活躍されています。逆にシニアな方もいて、大企業のCFOをされていたけど、残りのビジネスマン人生で成長企業に挑戦したいとプロパー中心の平均年齢30歳前後の若い会社のCFOに就任された方もいます。若手社員にとっては、年齢が近い人がマネジメントポジションに就任するとライバルになってしまいがちですが、その方はそうでなく、教育者としても素晴らしい役目を果たされているように思います。

【J-STAR 湯本氏】:弊社の投資先でも、今年7月に東証マザーズに上場されたアシロの川村取締役は32歳でCFOに就任頂きました。その方もマネジメント未経験でしたが、とても意欲のある人だと前情報があり、CEOも面接を通じて彼のことをとても気に入っていたので採用しました。実際に入社後もCEOとの相性も良く、社内外からの信頼を得てご活躍されています。CFOは、ベースの財務となる知識があれば、そこから先は本人の意欲次第でキャッチアップできる領域が大きいので、未経験の方でも採用することが多いです。自分が会社全体を把握している状況をつくり、CEOに提言したり、銀行や株主などに対して説明責任を果たすというCFOの業務を通じて得られるスキルは今後どこに行っても役に立つので、CFOとしてやり切れたら確実に市場価値は高まります。そこから先は、CEOを志す人もいれば、そのままずっとCFOとしてやっていきたいと方もいたり様々です。

【INQ 佐竹】:投資先で活躍された方のその後のキャリアについて、ロールモデルになる方はいらっしゃいますか?

【AP 市川氏】:マッキンゼー出身で、ポッカコーポレーション(現・ポッカサッポロフード&ビバレッジ)にて戦略グループ長(CSO)を務めた前川智範氏ですね。彼はExit後に、第一製パンに特別顧問として入社し、社長に内部昇進されました。そこから私たちの投資先に戻って来られ、現在はカジ・コーポレーションの社長をされています。

【INQ 佐竹】:コンサルティングファームからいきなりCEOだと飛躍感がありますが、投資先でCSOとして経験を積んだことで、大きくキャリアアップできたのですね。

【AP 市川氏】:はい。補足すると、経営企画はポストコンサルで好まれるキャリア上の選択肢の一つですが、大企業の経営企画は役割が財務や管理に寄っているケースが多いです。予算策定や予実管理に多くの工数を投入し、子会社の管理をして、突発事象があった時にその対処は経営企画が真っ先に動いたりといった具合です。それと比較すると投資先の経営企画は、コンサルティングファーム出身者が期待しているような戦略的な業務ができるので、良い経験を積むことができ、キャリア上大きくプラスに働きやすいやすいと思います。

少し変わったモデルでいうと、メガネスーパーのEC事業の本部長を務める川添隆氏が挙げられます。もともと、弊社の別の投資先の一般社員でしたが、その手腕からめきめきと出世され、メガネスーパーに入社後は、更なる飛躍をされました。現在はメガネスーパーで執行役員をされつつ、副業でECエバンジェリストとしても活動されています。弊社の投資先複数社でもEC事業のアドバイザーをお願いしています。

【INQ 佐竹】:なかなかユニークな経験ですね。湯本様はいかがでしょう?

【J-STAR 湯本氏】:東海トリムに途中からCFOとして入社された森氏は、金融機関対応や資金繰りなど当時課題であった財務面での正常化に尽力し、その様子から社内の信頼を高め、CEOに内部昇進されました。今は退職されて、ご自身でコンサルティング会社をやられています。

私たちが投資からしばらく経ってCxOを採用する場合は、市場環境が大きく変わったり、何かしらの要因により当初描いていたシナリオから大きくずれている時です。往々にしてリソースも資金も限られた厳しい状況ですが、そうした中でも成果を挙げられた人は本当に強く、引く手あまたの人材になれますね。

ファンド投資先経営経験者は当然ほかのファンドからもお声がかかります。現に弊社投資先セクションエイトの安田社長は、APさんの投資先であったコメダ珈琲の前社長です。コメダさんとセクションエイトは店舗ビジネスという以外業態は全く異なるのですが、ユニークな事業ということで社長をお引き受け頂くことができました。業態開発は創業会長、事業展開は安田社長という役割分担に基づき、創業者の直感やセンスを仕組化し発展させる事業運営を頂いています。

他には、経営企画担当役員として弊社の投資先に入り、その後別の投資先の社長になられたという、弊社のポートフォリオの中で昇進される方もいらっしゃいます。

【INQ 佐竹】:今度も様々なロールモデルが増えていきそうですね。

【AP 市川氏】:そうですね。ここ5年で30~40代の若手優秀層が、転職先として投資先CxOを選択してくれるようになったので、今後様々な人材が輩出されていくと思います。

── 投資先で活躍できる方、出来ない方の特徴を教えてください。

 【INQ 佐竹】:投資先で活躍できる方、逆に活躍できない方の特徴はありますか?

【AP 市川氏】:活躍できるのは、主体性とそれに伴う説明能力がある方です。これまで湯本さんと私で何度も「説明責任」という言葉を使っていますが、ご自身の考えをご説明していただけないと、株主である私たちは意思決定ができません。インパクトのある内容である必要はありませんが、こうするべき/しないべき、と明確にポジションを取って、論理的に説明していただけると、私たちとしても安心感があります。

向いていないと思うのはその逆で、お伺いの姿勢が強く、ご自身の意思が見えない方です。まず会社としての意思があって、その意思を我々株主に伝えて最終ジャッジを仰ぐ、というのが健全な会社の姿です。私たちへのお伺いが多いと、誰が責任を持って意思決定しているのか曖昧になってしまうので、それは避けたいですね。

【J-STAR 湯本氏】:私も市川さんと同意見で「野望」がある人が望ましいです。自身が実現したい世界を持っている人は人を巻き込んでいけますし、意思決定に迷ったときにも立ち戻る軸になります。あとは、「学ぶ姿勢」ですね。何歳になっても常に学ぶ姿勢がある方の適応能力はすごいです。経営は色々な危機や矛盾を乗り越えていくことが必要となるので、それを克服していくためには常に学び続けていかないといけません。

私も絶対に避けたいのは「人のせいにする人」ですね。CxOは経営人材としてしびれるような意思決定をしなければいけない場面が度々訪れますが、自分の意思を明確に示さずに、ただファンドに言われたから・・・という動きをされる方は一定数いらっしゃいます。野望のある人は人のせいにはしません。もちろん、物事を円滑に進めるための社内コミュニケーション上の作戦として、あえてファンドのせいだと説明に使っていただく分には構いません。

── 採用面接ではどのようなことを聞かれるのでしょうか?

【INQ 佐竹】:お二人は投資先CxOの採用面接もされますが、採用面接ではどのようなことを聞かれるのでしょうか。

【J-STAR 湯本氏】:主張のうまい下手は別にして野望を感じるかを重視しているので、まず、「何がしたいのか」を聞きます。漠然とした質問なので困る方が多いと思いますが、それでもご自身なりの回答を持っている、意思のある方がいいですね。あとこれは簡単に読み取れるものではないのですが他責の志向性がないかは注視しています。

【AP 市川氏】:何度か面接を重ねると対象の会社のことを良く分かっている前提になるので、具体的な戦略のディスカッションをします。そこが私たちとずれていたらお互いに不幸なので、面接の場で可能な限りすり合わせています。

── 投資先CxOをどのように評価するのでしょうか?

【INQ 佐竹】:今度は採用された後の話を伺いたいのですが、どのように投資先CxOを評価されるのでしょうか? 投資先によって異なるかもしれませんが、一般的な評価の方法があれば教えてください。結果はすべて数字で図られるようなイメージがありますが、実際はどうでしょう?

【AP 市川氏】:私のチームは就任後3か月でフィードバックをしており、ざっくばらんに話をしています。評価の方法はその会社の状況や、CxOのタイプによって変えています。定量項目を100にすることもありますが、その一方、まだ若くてマネジメント経験がなく、長期的な視点で成長を期待している方には定性項目を多めに設定することもあります。

最終的にいかにうまく状況をマネージできたかを重視するので、目標はあまり期初に細かく設定しすぎないようにしています。期初の目標に引きずられてしまって、環境の変化に臨機応変に対応できなくなるのが最も困ることです。特に、リーダーシップポジションが初めてという方は、臨機応変な対応が課題になりがちです。上から降りてきたことを確実に実行する力は高くても、CxOとして判断を求められる経験がないと、期初の計画に捉われすぎてしまうことがあります。そこはスタッフからマインドセットを変える必要がある所ですね。

【INQ 佐竹】:長期的な視点で設定されるということがあるのは意外です。Exitが決まっていて短期間で成果を上げないといけないために、評価のスパンも短期的だというイメージがありました。

【AP 市川氏】:そういった方は、採用の時点で一緒に成長していく前提で採用しています。一方で、マチュアで即効性を期待した方の場合には、むしろポテンシャルを語る方が失礼ではあるので、成果ベースで評価していきます。

【INQ 佐竹】:湯本さんはいかがでしょうか。

【J-STAR 湯本氏】:私の場合は、かしこまって評価をするのは年に一度です。市川さんと同様に決まった評価フォーマットはなくて、面談の場でポイントを箇条書きにしてお話することが多いですね。以前細かい評価フォーマット作ろうとしたこともありましたがワークせず、機械的、定量的な評価よりも、適宜対話を行う方が圧倒的に重要と認識しました。また業績があまりよくない会社のCxOの場合には、必然的にコミュニケーション機会が多いので日常的なレビューになっています。逆に業績が良い会社は、いい意味で忘れてしまうので向こうから連絡を取ってきますよ。(笑)

【INQ 佐竹】:お二人とも画一的なフォーマットを設けずに、企業の状況とCxOのタイプで柔軟に設計されているのですね。

── 最後に、候補者の方にメッセージをお願いいたします。

【INQ 佐竹】:最後に、投資先CxOに関心を持っている候補者の方に向けて、メッセージをお願いします。

【J-STAR 湯本氏】:PE市場が今後も拡大していくためには、①事業承継など案件が増える ②資金供給者が増える ③投資先CxOとして活躍できる人材がいる、の3要素が必須になります。どれか1つが欠けるとそこで市場拡大は止まってしまいますが、現在最もボトルネックになっているのは③の人材です。案件数、資金供給については成長を続けており、需要に対して圧倒的に人材が足りていない状況です。その中に飛び込むことで得られるチャンスも多く、ご自身がやりたいことを私たちに説明し合意が取れれば比較的自由に動けるので、その方次第でチャンスは無限に広がっていきます。ただ、変革をする際には、社内の軋轢を生むこともあるので、誰よりも本気で取り組む姿勢を見せなければ人はついてきません。よく学園ドラマに、外部から教師が入ってきて、最初はアウェイだけれども、懸命に取り組むうちに最後にみんながついてくるといったストーリーがあります。投資先CxOとして成功されている方は実際皆さんあんな感じでやられています。

【AP 市川氏】:人材市場には需要と供給があり、供給が多い中で需要がなければ損をします。最も損をしやすいのはずっと同じ企業一筋で、50代になって重役に昇進できる見込みがないと気づいたタイミングで転職をする方です。こうした方の市場への供給は非常に多いのですが、一方で需要サイドから見ると同じ企業一筋で、管理職経験はあっても経営の3要素を自分で管掌した事の無い方の需要はそんなに高くありません。メガネスーパーの星崎さんは元々商社のご出身ですが、30代に外に出て、外資で数社やっていく中で経営者として大きく脱皮されたと推察します。かつて、90年~00年代はこの様に外資系企業が経営者の育成機能を担っていましたが、今は多くの外資の日本支社は大企業になってしまっています。現在でもエマージングな外資の日本支社はそこまで多くはなく、エマージング過ぎると日本支社の機能が営業に限られますので、今後は外資系企業出身の経営者の供給は減ると見ています。今それに代わって、リーダー育成の役割を果たせるのが、PEの投資先です。同じ会社で働く中で重役に上り詰めるのを目指すことももちろん素晴らしい選択肢ではありますが、もしこのままで良いのか、もっとチャレンジしてみたいと思った時は、自分と似た様な人材の供給が少なく需要が高い時に、外へ飛び出してみるのがおすすめです。

 

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