安田 隆之 氏 - キャリアインキュベーション | ハイクラス・エグゼクティブの転職・求人情報

EXECUTIVE INTERVIEW

投資先経営人材インタビュー

安田 隆之 氏

株式会社セクションエイト 代表取締役社長 (2022.03.17)

https://section-8.jp/

1986年モービル石油(エクソンモービルを経て現エネオス)入社。営業、店舗開発を経て、コンプライアンス部門に15年間在籍。2005年日本マクドナルドにコンプライアンス本部長として入社。2006年、取締役執行役員、2008年取締役管理部門統括上席執行役員に昇格し、管理部門全体を統括。2011年アドバンテッジパートナーズからの委嘱により、同社投資先である株式会社コメダの代表執行役に就任。2013年Exitに伴い退任。2017年J-STARからの委嘱により、株式会社セクションエイトの取締役に就任。2018年より現職。

J-STARの投資先である株式会社セクションエイトは、全国で婚活応援居酒屋「相席屋」を展開する気鋭のベンチャーだ。J-STARから委嘱された代表取締役社長の安田隆之氏は、日本マクドナルドの上席執行役員、コメダの代表執行役社長を歴任したチェーン店ビジネスのプロフェッショナルだ。ファンド投資先で経営者を務めるのはコメダに続き2度目と言う安田氏へのインタビューを実施した。

[1]企業の紹介、今後の展開について教えてください

セクションエイトのビジネスは、大きく分けて、相席事業、The Public Stand事業、専門飲食事業の3つの柱で構成されています。

相席事業は、男女グループを相席によってマッチングさせる相席居酒屋の「相席屋」を中心した事業です。創業者で現会長の横山が発案した日本初の業態で、「相席」という言葉の持つイメージを大きく変えました。これまで「相席」と言えば、お昼のご飯時のサラリーマンの同席を連想させるものでしたが、今や「相席」と聞くと若い人たちは男女の出会いの場をイメージするようになったのではないでしょうか。昨年からは、1対1のシングル相席に特化した新ブランド「THE SINGLE」を展開しています。コロナ禍下での感染リスクの低減ニーズや、グループ相席を好まないお客様の支持を得て非常に好調で、次の成長の柱の一つとして育てています。THE SINGLEでは、安心して相席を楽しんでいただけるように公式アプリを活用した様々な取り組みをしています。例えば、お客様に会員登録をしていただいたうえで、アプリ上で相席相手を評価でき、万が一、一定のお客様から問題ありという評価を受ければその方には今後のご来店をお断りしています。また、一度相席した相手と公式アプリ上でメッセージをやり取りできる機能もあり、いきなりプライベートの連絡先を交換せずに、しばらくアプリ上でやり取りしながら様子を見ることができます。こうした取り組みを通じて、落ち着いた大人の相席を安心して楽しめる店づくりをしています。

「The Public Stand」は、従来のバーのハードルを下げた、新しいスタイルのバーです。これまでバーと言えば、地下にあって重厚な扉に閉ざされているために中の様子が分からないまま入店し、プライスリストがないために「帰り際に提示された金額をそのまま支払う」という形式が一般的でした。しかし、これでは気軽に入れません。The Public Standは飲み放題定額制の明朗会計で、外から中の様子を見て気軽に入れるように、店舗立地は1階か2階が原則。ファサードは街路から「店舗内が見える」ことをコンセプトに、明るいガラス張りという店舗デザインにしています。また、時間無制限で一度入店すればその日は何度でも出入りでき、他店舗へのジャンプもOK。例えば、0次会でサクッと飲んで、2次会で戻ってくるといった使い方も可能です。

私どもでの専門飲食事業とは、新しい事業の柱を探すための実験的な取り組みの総称といえます。「歌舞伎町駆け込み寺」として有名な玄秀盛さんにプロデュースをお願いした「新宿 駆け込み餃子」は、出所者に働く機会を提供することで社会復帰を支援しています。その他にも、夜のみの営業の店舗のキッチンを昼間に活用したゴーストレストランのほか、「THE SHISHA HOUSE」という新業態では、若者に人気のシーシャ(水たばこ)体験を提供するなど、様々なスタイルの店舗を運営しています。特に、THE SHISHA HOUSEはこれまでThe Public Standの一角を間借りする形で運営していましたが、今後は独立店舗を増やしていく計画で、10月末には渋谷に日本最大級のシーシャハウス「THE SHISHA HOUSE渋谷店」をオープンしました。

[2]自己紹介をお願いします(現在に至るまでのキャリアの変遷と転機について)

法学部の修士課程を修了後、1986年にモービル・オイル・コーポレーションの日本法人であるモービル石油(エクソンモービルを経て現エネオス)に入社しました。営業や店舗開発など現場の業務を経て、法務・コンプライアンス部門に専門性を定めました。途中、海外勤務も経験させていただき、非常に良い会社だったのですが、1999年にアメリカ本国でモービルとエクソンが統合したことで、日本でも関連5社が統合されることになりました。ここで多くの社員がキャリアを見直さざるを得なくなり、退職者が相次ぎました。私自身も、企業風土や仕事の進め方が大きく変わったことにストレスを感じてしまい、尊敬していた先輩の退職が決め手となり退職しました。その後、2005年に日本マクドナルドにコンプライアンス本部長として入社しました。当時の社長の原田泳幸さんとはケミストリーが合って、色々と任せていただき、最終的には法務・コンプライアンス・人事・広報・IR・品質管理・お客様相談室など管理部門全体を統括する取締役管理部門統括上席執行役員に昇格しました。その後、PEファンドのアドバンテッジパートナーズさんにお声掛けいただき、2011年に同社の投資先で、「珈琲所コメダ珈琲店」を運営する株式会社コメダの社長に就任しました。アドバンテッジパートナーズさんは3年後のExitを目指していて、私の社長としてのミッションはExitを成功させること、つまりExitまでに将来にわたって利益を上げることができる仕組みを構築して対外的にも認知させることでした。2013年に無事Exitを成功させ、社長を退任したのですが、この間にすっかりコメダ珈琲店が好きになってしまいました。コメダ珈琲店は郊外型の店舗展開で、ファミリー層をも顧客ターゲットにしています。働く人だけではない、「ファミリーのためのサードプレイスという」コンセプトが好きで、今でもフランチャイズオーナーとしてコメダ珈琲店の5店舗を経営しています。

その後はJ-STARさんにお声を掛けていただいて、2017年10月に社外取締役としてセクションエイトの経営に参画し、2018年5月に代表取締役社長に就任しました。

ファンド投資先の社長としてバリューアップを果たすために、事業の拡大だけではなく、各業態のサービスの標準化にも注力しています。私は石油会社、外食産業と業種は違えども、一貫してチェーン店ビジネスに携ってきました。チェーン店ビジネスでは同じブランド内でサービス品質が統一されていることが重要です。たとえば、私たちの相席事業は、ただ相席をセットして終わりではありません。たとえば、盛り上がっていない相席テーブルをきちんと把握してゲームを持って盛り上げに行くなど、お客様に楽しく相席していただく多彩なサービス・ノウハウを蓄積しています。他社も似たような業態の店を出していますが、相席形態やコンセプトは真似できても、こうした多彩なサービス・ノウハウはなかなか真似できません。もちろん、立地によってお客様の特性は全く異なるので、店舗ごとの個性は認めてはいます。しかし、個性を発揮できるのは、あくまでサービスのベースが整っていてこそ。私たちの強みであるサービスを、標準化を通じてより強固にして全店舗に展開していきたいと考えています。この強みを定性的に見るだけではなく、私たちはお客様がどれだけ楽しんだかを測定する定量的な指標を持っていて、各店舗で毎日測定しています。その指標が日々向上していくために、努力しています。

[3]なぜ今の会社/ポジションを選択されましたか?(なぜ経営者を目指されたのですか?)

ある勉強会に参加した時、たまたま隣に座っていたのがJ-STARさんの社員の方でした。お話ししてみるとご自宅がすぐ近所で、たまにお茶をするようになったのですが、ある日彼に会いに行くとそこにセクションエイトを担当しているパートナーの湯本達也さんが座っていて、お話をいただいたという流れです。私は「そこを目指して経営者になった」という訳ではなく、その時その時に自分が置かれた立場でやるべきことを、期待を超えられるように精一杯やっていく中で、自然にキャリア扉が開かれて、その先に経営者の道がありました。かっこよく言えば、「セレンディピティ」という表現が適切でしょうか。

期待を超えた事例として、マクドナルドでの話を挙げたいと思います。管理部門全体を統括することになり、それまで全く経験がなかった人事領域も管轄になりました。当時、店舗運営の方針を直営店中心からフランチャイズ中心に舵を切った時期で、多くの直営店スタッフがフランチャイズ店舗に転籍となり、人事部の役割も大きく変わった過渡期でした。特にフランチャイズ会社に転籍となったスタッフが大きく影響を受けたのが、社会保険です。それまでのマクドナルドの独自の健康保険組合から、フランチャイズが加盟する協会けんぽに変わったことで、多くの方の保険料が上がってしまいました。再びマクドナルドの組合に戻れないかと厚生労働省に相談をしたところ、資本関係がない会社の社員が別の企業の健保組合に入るのは認められないと断られました。ただ、会社の都合で個人が不利益を受けるのはあってはならないと問題意識を持っていたので、様々な調整を行った結果、日本で初めて、資本関係のないフランチャイズ会社の社員であっても加盟できる健康保険組合を設立できました。この成果は、非常に評価していただきました。

[4]経営者に必要なメンタリティ、スキル、経験とは何でしょう?

1つは、経営=チームだと、理解していることです。もし、経営層が全員同じ考えでは、絶対に経営は立ち行かなくなります。仮に当社の経営陣全員が安田だったと想像してみてください。あっという間に会社は潰れてしまいますよ。「1✕10」が「1」にしかならないんです。チームメンバーの多様な発想とか考え方からの意見を戦わせてこそ、より良い経営判断を導き出すことができます。よくオーナー企業にありがちなのが、オーナーの承認を得ることが目的化してしまうケース。自分の立場でやりたいと思うことを、経営陣で議論するよりも前に先にオーナーの承認を取ってしまって、その承認を盾に他部門に強制する。そんな動きが見られることがあります。私はマクドナルドにいた時にはそうした動きを避けるために権限規程を作り、意思決定を行うためには複数部門でのレビューを経ないと承認が下りない仕組みを作りました。当社においても、経営陣の参加する経営会議などで、ディスカッションの仕組みを整備しています。

もう1つは、報告された数字や情報をさらりと流してしまうのではなく、その中に潜む違和感のようなものを感じ取れるか否かの直感力です。つまり、財務でも人事でもマーケティングでもどの分野においても、数値や情報をパッと見聞きした時に、「正体は分からないがどこか気になる」という点を見つけられる力です。「フック」と言いますか「引っかかりポイント」を見つけられるようになること。そういうフックに気がつけば、社内の担当者に説明を求めながらその正体を突き詰めていくことができます。そのプロセスの中で現場も気づけていない課題を見つける場合もあります。

[5]これらのスキルなどをどこで手に入れたのでしょうか?

過去の経験の中で学びました。私はその時に置かれた立場で最大限の努力をしましたし、分からないことがあれば周りにも積極的に聞きながら勉強し続けました。そして、一つの組織の中で昇格を経る中で、人に育てられ、人を育て、チームをマネジメントするようになるなど、立場が変わる中で経験を積み重ねて、いろんなアンテナを揃えてきました。数字や情報を見た時の直感力というのも、生まれもったセンスだけではなく、経験の中で身につけることができるものです。

[6]過去に体験した最大の試練やストレッチされたご経験について教えてください

長引くコロナ禍で大きな環境変化に直面している今が、まさに試練です。これほどのチャレンジは、わたしの社会人経験の中でも初めてのことです。あくまでも一般論ですが、会社経営では、PL、キャッシュフロー、BSという優先順位で経営を見ていくことが多いのではないでしょうか。しかし、このコロナ禍という未曾有の状況下では、仮にPLとキャッシュだけを見て不採算店舗を閉めようと思ったとしても、今度はBSが毀損されてしまい、債務超過に陥りかねません。大手チェーンの中には外部からの調達を行って資本を確保した上で不採算店舗を閉鎖している企業もありますが、中小企業ではなかなかそうもいきません。幸い、当社はバランスの取れた経営を行なっていますが、それに慢心することなく、財務バランスを取りながら経営の舵取りをしていくという意識は忘れてはいけないと思っています。

[7]ファンド投資先企業で働く際の特徴について教えてください

ファンドによって投資戦略やコーポレート・カラーが異なりますが、どこのファンドでも必ずExitがあり、時間軸が決まっているのが大きな特徴です。逆に言えばその期間は、必ず安定した株主がいてくれるということです。企業価値を高めることは、ファンドにとっても社長にとっても共通の目標です。ファンドのExitスケジュールにあわせた事業運営をきちんと行っていければ、中期的に企業価値を高めていくための安定的な経営ができます。また、経営者のビジネスパートナーとして、ファンドの持つノウハウを思う存分活用できるのも、忘れてはならない特長だと思います。たとえば、現在の当社の株主であるJ-STARさんは様々な投資先を有し、それらの投資先を横断的に見ていますから、様々な企業のいろいろな経営上の知見やノウハウ、そして人材などのリソースがストックされています。私も困ったことがあれば、率直に相談させてもらっていますが、もしこれが一般企業であれば、その都度その都度、コンサルを雇わなければいけません。よく経営者は孤独だと言われますが、同じ経営目線を持ち、腹を割って話せるビジネスパートナーがいるというのは本当に心強いです。

あと、これはイレギュラーかもしれませんが、私個人でJ-STARと投資先検討の際のアドバイザリー契約をしています。様々な方にお会いして、様々な検討を行なう機会をいただいており、なかなか楽しくやっています。

[8]経営者となった今、何を成し遂げたいとお考えでしょうか

「人を育てる」ということです。漠然とではありますが、昔から「自分のできることで日本を良くしたい」とは思っていましたが、大言壮語してもしょうがない。まず「自分のできること」からやっていくしかありません。今の自分が残りの人生の中でどのようなアプローチであれば貢献できるか?と考えた時に、私の場合は、会社など今の立場で接している若い人たちを育てることだと思っています。

[9]最後に、マネジメントポジションを目指す方にメッセージをお願いします

「おきばりやす」でしょうか(※安田さんは京都生まれ)。経営者になることに「これさえやっておけばOK」みたいな即決型の「How To」のソリューションはありません。誤解を恐れずに言えば、「明日、転職すれば急に世界が変わって、明後日から望み通りマネジメントになれる」なんてことはありません。キャリアの扉を無理矢理にこしらえそれを無理矢理にこじ開けてみたところで、扉を開けてみれば何も変わっていない。ご自身の志を実現するための道のりは、今日の自分、明日の自分、明後日の自分…の日々の積み重ねでしかありません。現在の自分が将来の自分につながっている。結果として、そこにマネジメントとしてのポジションがある。私はそんなふうに考えています。では、今日何をやるか。そのスタートとは、「今目の前にあることを全力できちんとやる」ということです。そして、明日は今日の110%を目指して、明後日はその120%を目指す。その積み重ねによって、自然とキャリアの扉は向こうから必ず開いていきます。高い志を持ちながらも、日々の努力を重ねてください。

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