前川智範 氏 - キャリアインキュベーション | ハイクラス・エグゼクティブの転職・求人情報

EXECUTIVE INTERVIEW

投資先経営人材インタビュー

前川智範 氏

株式会社カジ・コーポレーション 代表取締役社長 (2022.03.31)

https://kaji-corp.co.jp/

1991年東京大学理学系大学院化学専攻修了後、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。A.T.カーニー、アリックスパートナーズなどコンサルティングファームで経験を積んだ後、アドバンテッジパートナーズ投資先であるポッカコーポレーション(現・ポッカサッポロフード&ビバレッジ)の執行役員経営企画グループGM、同社の親会社のサッポロホールディングスの経営戦略部シニア・ディレクター、豊田通商の投資先である第一屋製パンの代表取締役社長を歴任。2019年9月、再びアドバンテッジパートナーズの派遣により同社投資先のカジ・コーポレーションに入社、2020年3月代表取締役社長に就任。

アドバンテッジパートナーズは2019年9月、愛知県名古屋市の総合エンターテインメント企業 カジ・コーポレーションへの投資を発表した。アドバンテッジが派遣し、2020年3月にカジ・コーポレーションの代表取締役社長に就任したのが前川智範氏だ。前川氏はマッキンゼー・アンド・カンパニーやA.T.カーニーなどのコンサルティングファームで経験を積んだ後、アドバンテッジパートナーズからの派遣でポッカコーポレーションの経営企画、豊田通商からの派遣で第一屋製パンの代表取締役社長を歴任した経験豊富なプロ経営者である。カジ・コーポレーションは1984年の創業以来、長きに亘って創業者がリーダーとして先導してきた。前代表の色が濃く残る同社で変革に取り組む前川氏にインタビューを実施した。

[1]企業の紹介、今後の展開について教えてください

カジ・コーポレーションは、1984年にカラオケ機器の販売・レンタル代理店として創業し、以降はM&Aによってエンターテインメント系の様々な事業を取り込む形で成長しました。現在は4事業を展開しています。1つ目は創業事業であり、業界最大手であるカラオケ機器の販売・レンタル代理店事業です。2つ目は複合カフェ事業で、「アイ・カフェ」など複数ブランドを直営/フランチャイズで全国展開しています。残り2事業は共にリユース系で、3つ目のリユースショップ事業は「お宝創庫」「プレイズ」などの複数ブランドのリユースショップを東海・西日本地域で約40店舗運営しています。基本的に何でも取り扱いますが、特にゲーム、トレーディングカード、フィギュアなどの趣味系カテゴリに強みを持っています。4つ目のラグジュアリー・リユース事業はブランド品の中古仲介を行うB2Bビジネスが主で、子会社のRs-JAPANで運営しています。グループ正社員約400名とアルバイト社員約800名で運営しています。

今はコロナ禍の影響で、収益の柱だったカラオケ機器代理店事業と複合カフェ事業が厳しい状況です。一方、リユース系2事業が好調で、リユースショップ事業はゲームやトレーディングカードなどの趣味系カテゴリで巣籠需要を、ラグジュアリー・リユース事業は旅行に行けない分のお金の使い道という需要を取り込んでいます。

今後の展開としては、これまでの様なM&Aによる成長ではなく、今後も成長が見込めるリユース系2事業への投資を強化する方針です。目下では、これまであまり強くなかったオンライン販売を強化していこうとしています。また、これまでM&Aで拡大して来たため事業部ごとに社風もマネジメントスタイルも全く異なるので、各事業部の運営についても見直しています。

[2]自己紹介をお願いします。(現在に至るまでのキャリアの変遷と転機について)

2019年9月に取締役COOとしてカジ・コーポレーションに派遣され、2020年3月に現職の代表取締役社長に就任しました。

これまでのキャリアとしては、東京大学理学系大学院化学専攻を1991年に修了し、新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社しました。マッキンゼーで5年、通信ベンチャーで経営企画室長として2年、A.T.カーニーで6年半を経て、アリックスパートナーズに在籍していた時にヘッドハンター経由でアドバンテッジパートナーズ社投資先のポッカコーポレーション(現・ポッカサッポロフード&ビバレッジ)案件で声を掛けていただき、事業会社での実務に関心があったのでお受けしました。ポッカでは執行役員経営企画グループGM、その後親会社のサッポロホールディングスに出向して経営戦略部のシニア・ディレクターとしてグループ事業のアドバイザーを務めました。退任後は、ポッカでの仕事でお付き合いがあった豊田通商に声を掛けていただき、同社が筆頭株主である第一屋製パンの代表取締役社長に就任しました。3年後に創業家出身の社長に引き継いだ後、再びアドバンテッジパートナーズからカジ・コーポレーション案件でお声がけいただき、現在に至ります。

[3]なぜ今の会社/ポジションを選択されましたか?(なぜ経営者を目指されたのですか?)

私の場合は最初から経営者を目指していた訳ではなく、人との繋がりの中でキャリアが形成されていきました。そろそろ転身したほうがいいかなと思った時に、いつも誰かから声を掛けていただいて来ました。コンサルタントを長く経験をする中で、もっと自社でリスクを取りたい、事業会社で実務をしたいと思い始めていた時に、ポッカの経営企画で声を掛けていただきました。ポッカでは実務ができたものの経営企画は事業会社の中でもコンサルタントに近い立ち位置だったので、より自身で責任を負える立場になりたいと思うようになり、次第に経営者を志向していきました。そして、豊田通商から第一屋製パン案件で声を掛けていただき、経営者への道が開けました。

[4]経営者に必要なメンタリティ、スキル、経験とは何でしょう?

メンタリティとしては、従業員、お客様、社会、株主などステークホルダーの幸せを願うことです。自分自身の幸せをモチベーションにしていても短期的に会社を成長させることはできると思いますが、企業を永続的に繁栄させるためには全てのステークホルダーが幸せになることが必要です。

スキルとしては、経営者は組織が能動的に動くように持っていかなければならないので、聞く力、考える力、チームを構築して自律的に動くようにする力といったソフトスキルが重要です。ハードスキルはある程度チームでカバー出来ますので、ソフトスキルがより重要であると考えています。

ただ、ファンドから派遣される経営者の場合は、ハードスキルも大きな武器になります。“鳴り物入り”で社長に就任するので、何らかの一芸がなければ、元からいる社員はこの人の話を聴こうとは思ってくれません。私の一芸はコンサルタントとして培った戦略立案などのスキルでしたが、ITだったり、ファイナンスだったり、なぜか誰からも好印象を持たれるといったソフト面だったり、人それぞれで何でも良いと思います。まずはこの人の話を聴いてみようと思ってもらえるような関係性まで持っていけるかどうかが鍵であり、そこまで行ければ、ソフトスキルを活用し上手く進めることが出来ると思います。

[5]これらのスキルなどをどこで手に入れたのでしょうか?

人を動かす方法は様々で、私の場合は相手を理解して、この人と円滑に物事を進めるにはどうするのが最適かを常に意識しています。このスキルは“究極のサービス業”である、コンサルタント時代に学びました。社外のコンサルタントか、社内の人間かで立場は異なりますが、私は事業会社に移ってからも特に大きなギャップは感じませんでした。

[6]過去に体験した最大の試練やストレッチされたご経験について教えてください。

印象に残っているのはコンサルタント時代です。昔のコンサルティングファームは今では考えられないような無茶振りが多く、例えば銀行のプロジェクトに入った時にはクライアントに不良債権の専門家として紹介され、本職の銀行員と不良債権について議論するため2週間位殆ど寝ないで勉強したりしていました。数か月単位でプロジェクトが変わるので、その都度新しい業種やテーマに触れ、徹夜で勉強するので、幅広いイシューをカバーできるようになりました。また、様々な企業を見て広い世界を知る中で、自社の相対的な位置づけや課題を見極める視点を得ることができました。

ビジネスとしての試練は、第一屋製パン時代です。コストカットによってようやく黒字に転じたタイミングで入社したのですが、直後に収益の柱だったビジネスが業界大手競合からの攻勢に遭って大きく売上を落としました。この時はその柱ビジネスの回復は見込めないと判断し、新しい領域で売上を作ることに奔走し、増益を確保することができました。現職でも入社直後にコロナの打撃を受けたことは試練でしたが、こちらはコロナ禍が落ち着けばある程度は戻る想定であったため、人財を確保しながら耐える経営を行い、今期はコロナ前を超える利益を確保できる見込です。

[7]ファンド投資先企業で働く際の特徴について教えてください。

ファンド投資先はExitという期限があるため、短期間で成果が出せる施策を優先するなど多少優先順位が変わることはありますが、基本的には一般企業の経営者と大きくは変わりません。

ただ、投資先企業によって目指すゴールは異なります。カーブアウト案件は親会社から独立して自走できるまでが目標だったりしますし、最終的にはIPOを目指している企業でも自分の在任中は内部管理体制構築までが目標で、IPOは売却先のファンドに託すというケースもあるようです。ファンドと経営者との対話の中でExitのスキームが変わることもありますので、より柔軟性は必要になってくると思います。

[8]経営者となった今、何を成し遂げたいとお考えでしょうか。

少しでも多くのステークホルダーを幸せにすることです。それができないのであれば経営者である意味がありません。従業員、お客様、社会、株主と様々なステークホルダーがいますが、企業は一番近くの従業員が起点です。従業員が幸せであることがお客様を幸せにすることに繋がり、社会貢献や株主への還元にも繋がっていきます。従業員を不幸にしてでも短期的な収益を取るといったことは絶対にしないよう心に留めています。

[9]最後に、マネジメントポジションを目指す方にメッセージをお願いします。

経営者は決して割のいい仕事ではありません。ある意味「全知全能」を求められるところがあり、特に外部から派遣される経営者は高い期待値で迎えられます。また、ファンド投資先では短期間で成果を挙げなければなりませんし、失敗すればキャリアに傷がつくリスクもあり、経営者を目指す場合には覚悟が必要です。また、経営者は自分自身のためではなく、ステークホルダーのために存在する公の立場です。

ただし、覚悟があって多くの人を幸せにしたいという志がある方々にはとても良いフィールドです。そうした方々が経営者になった暁には、多くの人を幸せにできるよう尽力していただきたいです。

 

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