取締役CFO 吉田和樹 氏(左)
大学卒業後、有限責任あずさ監査法人を経てボストン・コンサルティング・グループに入社し、新規事業立案や全社改革支援等の業務を経験。2019年よりマテリアルグループに入社し、CFOに就任。コーポレートチームの管掌と、M&A含む事業開発等に従事している。慶應義塾大学商学部卒業。
経営企画グループ 坂田直人 氏(右)
三井住友銀行で法人営業を経験した後、2020年マテリアルグループ入社。経営企画グループで、グループ全体の経営管理業務、全社プロジェクト推進、ブランディング、SDGs戦略策定など業務内容は多岐にわたる。一橋大学社会学部卒業。
アドバンテッジパートナーズの投資先の1つであるマテリアルグループは、現在IPOを目指す第2創業期にあり、M&Aを通じて2019年に1社、2021年に2件がグループ傘下に入りビジネスを成長させている。アドバンテッジパートナーズの紹介でCFOとして着任しているのがあずさ監査法人、ボストン コンサルティング グループ出身の吉田氏だ。就任して2年だが、この間に3社のM&A成立に関わった他、それまで同社にはなかった中期経営計画(中計)を新たに導入するなどアグレッシブに変革を推進している。そんな吉田氏の右腕として活躍しているのが、経営企画グループ第1号社員として入社した坂田氏である。第2創業期をリードし、今後同社のIPOを中心的に進めていくことになる2名にインタビューを実施した。
[1]企業の紹介、今後の展開について教えてください
【吉田】:私と坂田が所属するマテリアルグループ株式会社は持株会社で、株式会社マテリアルを中核として、マーケティングコミュニケーション領域でサービスを提供する企業グループを形成しています。グループ全体の経営方針の策定や経営管理業務を担っており、現在はIPOを見据えた体制の変更やM&A推進なども行っています。
中核企業のマテリアルは2005年に創業したPR会社で、「ストーリーテリング」に強みを持っています。マテリアルのストーリーテリングは、ただブランドストーリーを発信するだけではありません。価値観が多様化する中で形成される、同じ価値観を共有する小さな集団を「トライブ」と呼び、ターゲットとなるトライブに対して何をどのタイミングで伝えていくのかコミュニケーション戦略をきめ細やかに設計する情報流通設計術を指しています。このストーリーテリングを支えているのが、プランニングチームです。PR会社としては珍しくプランニングの専門チームを有しており、ハイレベルな戦略設計から携わることができます。マテリアルは、世界的に権威のある広告・コミュニケーションの祭典「カンヌライオンズ」で7年連続受賞しており、今年も日本から唯一ショートリストにノミネートされ、シルバー/ブロンズをダブル受賞しました。
そして、2019年からは積極的にM&Aを実施しており、グループシナジーの創出を目指しています。
まず、PRのケイパビリティを強化するために、2020年1月にP-NEWS事業を取得(現在、クラウドプレスルーム事業として株式会社CONNECTED MATERIALにて運営)、2021年2月に株式会社ルームズを買収しました。CONNECTED MATERIALは「クラウドプレスルーム」という、企業広報担当者とメディアをデジタルで結びつけるPRプラットフォームを提供しています。企業広報担当者はプラットフォーム上の専用プレスルームでメディアに対して情報を発信できますし、メディアは企業のプレスルームを訪問して情報を取得したり、今探している情報の募集をかけることもできます。ルームズはプロダクト・プレイスメントの独占企業です。プロダクト・プレイスメントとは、ドラマや映画に出演者の衣装・小物として実在の商品を貸し出すことで、視聴者に商品を認知してもらうPR手法です。もともとマテリアルは情報番組/報道番組へのPRは強かったのですが、ルームズがグループに参加したことで範囲をドラマにも広げることができ、TV PRにおいて存在感を高めることができました。
そして、PRによる認知獲得だけではなく実際の購買に繋げるところまで一貫してサポートできるように、2021年2月に株式会社フリップデスクを買収しました。同社が提供するWEB接客ツール「Flipdesk」は、サイト訪問者のユーザーデータを分析し、分析に基づいた最適な情報訴求を行うことで、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)を向上させ、購買率向上に繋げます。
マテリアルグループの今後の展開としては、この“認知獲得から購買まで”を一貫して支援するサービス体制がクライアントの期待に応えられるかを実証することと、またさらなる飛躍ができるよう新たな成長領域を探して引き続き積極的にM&Aを実施していく方針です。
[2]自己紹介をお願いします。(現在に至るまでのキャリアの変遷と転機について)
【吉田】:2019年10月にCFOとしてマテリアルグループに入社し、コーポレート部門(財務、経理、経営企画、人事、法務、マーケティング)を管掌する他、M&A推進や中期経営計画(中計)の策定なども担っています。マテリアルグループ入社以前は、大学在学中に公認会計士の資格を取得、2010年から約6年半あずさ監査法人で大手企業の監査業務に従事した後、2016年から約3年間ボストン コンサルティング グループ(BCG)で、M&Aや新規事業立案など様々なテーマのプロジェクトに従事しました。
【坂田】:私は2018年に一橋大学を卒業し、三井住友銀行で法人営業をした後、2020年4月にマテリアルグループに入社しました。現在は経営企画グループで、レポーティング、管理会計、全社プロジェクトのPMOから、PMIフェーズでのオペレーション改善などグループ全体に関わる様々な業務を担っています。私が入社した当時は、経営企画グループはまだ立ち上がったばかりで、私は第1号社員でした。
[3]なぜ今の会社/ポジションを選択されましたか?
【吉田】:最初に監査法人からコンサルに転職したのは、経営上の意思決定に関与したいと考えたためでした。BCGでは重要な経営意思決定に関与できたものの、月並みですが実行局面においてはクライアントの本気度・実行力に左右されてしまう面もあり、また、決定された戦略が実行に移されないこともありました。そうした中で、次第に第三者としてではなく、企業の中に入って実行までコミットしたいと考えるようになり、事業会社への転職を決意しました。成長していること、経営チームがフラットであることの2軸で事業会社を探していた時に、アドバンテッジパートナーズからマテリアルグループのCFOポジションのお話をいただきました。話を聞く中で、私自身成長性を感じましたし、ファンドが投資していることで成長性は外部からも担保されていると考えました。また入社前の代表青﨑との面談では、自身が創業期のメンバーで営業トップ、且つプロのPRパーソンとして会社の成長を牽引してきた人物であるにも関わらず、自分ができないことは補い合おうという姿勢で、この人とならフラットに何でも話し合える関係性を築けそうだと感じました。私が求める2軸をここまで満たす会社は他にはないだろうと考え、PRマーケティングビジネスは全くの門外漢でしたが、入社を決めました。実際に入社してから、やるべきだと考えたことはどんどん提案して実行に移せています。例えば、中期経営計画(中計)は私が入社してから策定するようになり、計画と実行のサイクルが回るようになりました。
【坂田】:新卒の就職活動時には経営に近い仕事がしたいと考え、そうした仕事の中でも特に顧客と長期的な関係性を築くことができる銀行に入行しました。しかし、銀行の法人営業は経営には関与できるものの、どうしても数字を追わなければならない面が大きかったため、より本質的に経営に関わることができる事業会社の経営企画部門に行きたいと考えるようになりました。転職活動をする中でマテリアルグループを知り、吉田との面接時に色々と話を聞き、成長期にある小規模な組織の経営企画なので幅広い経験が積める点に魅力を感じました。実はその面接の場で、オファーが貰えたらマテリアルに行こうと心に決めていました。
[4]現在のポジションに必要なメンタリティ、スキル、経験とは何でしょう?
【吉田】:意思決定と実行を担うポジションなので、問題発見・解決のスキルは必須です。マインドセットとして求められるのは、最後までやりきる責任感と、誠実さです。何か新しいことや変革を進める際には、その先頭を取るリーダーのスタンスは成否を大きく決めます。リーダーに、最後までやりきる責任感や意思がなければその瞬間に止まってしまいます。また、常にマネジメント視点の論理で物事を考えるのではなく、影響を受ける当事者にとって本当に必要な変革なのかを真摯に考える誠実さがなければ、社員についてきてもらうことはできないと思います。
【坂田】:経営企画グループでは全社施策を手掛けることが多いので、一歩引いて全体を俯瞰する姿勢が大切だと日々感じています。1つの施策に対して、ある人はやりたいと考える一方で別の人はやりたくないと考えるなど、立場や個人によって意見は変わります。そうした中でゴールに向けて円滑に物事を進めていくには、自分が正しいと思う意見をそのまま伝えるのではなく、それぞれの立場を尊重した伝え方を心掛け、協力者を増やしていきながら合意形成をしていくことが重要だと感じています。
[5]これらのスキルなどをどこで手に入れたのでしょうか?
【吉田】:「責任感」については、それまでの監査法人やコンサルタントの業務の中で徹底して身につけていましたが、特に「誠実さ」については弊社に入社して実行フェーズを担う中で日々その重要性を実感する中で真に身に着けたと思っています。立場の異なる様々な部門の人が所属する事業会社では、変革を実現させるには、それぞれの立場を理解した上で対話をしなければ合意形成に結び付きません。
【坂田】:私は入社後に日々の経験の中で学びました。入社してすぐにSFAツール(営業支援ツール)の導入を担当しましたし、その後もビジネスインテリジェンスツールの導入、ブランディング、SDGs戦略など日々新たな業務にチャレンジしており、様々な関係者と関わる機会が豊富だというのが大きいです。
[6]過去に体験した最大の試練やストレッチされたご経験について教えてください。
【吉田】:2021年2月にルームズとフリップデスクの2社のM&Aを同時に成立させた時は、検討事項の多さや責任へのプレッシャーで結構な試練でしたが、大きくストレッチできたと思います。中計ではM&A戦略の方向性は定めているものの、具体的にどこの企業を買収するかはスクラッチからの検討になります。この時は、アドバンテッジから紹介していただいた企業や、先方から声を掛けていただいた企業など10件以上をフィージビリティ・スタディから検討しました。代表の青﨑やM&Aのプロフェッショナルであるアドバンテッジとチームとして協力し、買収候補先への提案時には統合後の方針を明確に示したことで、先方に好印象を持っていただき、独占交渉権をいただけたこともありました。また、買収先の社員へのアナウンスに非常に気を遣いました。最も避けたいのが、彼らがグループ内の1ビジネスになることで、自分たちの事業の価値が希釈されてしまうと感じてしまうこと。そうなるとモチベーションの低下にもつながり、期待していたシナジーを発揮することができません。そうではなく我々経営陣と同じようにシナジーに期待してもらえるように、アナウンス時のコミュニケーション戦略は綿密に練りました。統合の背景、私たちが感じている価値、グループとして得られるシナジーなど伝えるべき内容、発表のタイミングは徹底的に考え抜いたこともあり、好印象で受け入れていただくことができたと思います。今も一部のPMI業務が残っているものの、順調に進んでいます。想定外に上手くいかなかった面もありましたが、その反省は現在進行しているイニシアチブに反映したり、また今後の買収時にも活かしていきたいと思います。
【坂田】:私は、入社して1~2か月の頃に手掛けたSFAツールの導入です。銀行員時代は営業だったので、システムには詳しくありませんし、もちろん導入を手掛けるのは初めてです。かつ、入社当時(2020年4月)はコロナ禍のフルリモート勤務で、同僚を誰も知らない中で進めたのでかなり大変でした。
運用ルール設計から関わったため、営業の現場の社員の声を取り入れて実務に即した形を検討しなければなりません。ここは、逆に入社したばかりということを武器にして、かなり深く業務について質問をして回りました。また、業務フローの変化を伴うことから導入にネガティブな社員もいたので、メリットを丁寧に伝えていきました。その後も様々な改革プロジェクトに関わっていますが、入社直後に全社に大きな影響を及ぼす改革を手掛けることが出来たこの経験は、今でも非常に活きていると感じています。
[7]ファンド投資先企業で働く際の特徴について教えてください。
【坂田】:株主が取締役会に出席して積極的に意見提言をするので、すぐに実行に移せるため非常にスピード感があります。株主がここまで意思決定の近くにいるのは非常に特殊な環境だと感じています。
【吉田】:対ファンドでは、常にエクイティを預かるプロ経営者として仕事をしている感覚です。ファンドはあくまでアドバイザーで、執行はこちらというフェアな関係が築けています。担当の市川さんとは、週次で開催される中計のステアリングコミッティと、青﨑と私との定例の場でお会いしています。市川さんのように経験豊富な方と毎週のように議論を交わして意見やフィードバックをいただけるのは、会社にとっても私たちマネジメントにとっても成長上の重要な意味があると感じています。印象的だったのが、私が入社して間もない頃に、P-NEWS事業の取得を検討していた時の出来事です。買収方針については大枠で方向性が定まっていたし、投資額もそこまで大きくなかったので、私は実施ありきで検討していたのですが、喜多さんや市川さんから「競争優位を示すKPIとその改善のためのアクションは?」「事業上のリスクとその対応策、撤退基準は?」など非常に真っ当な質問をいただきました。この時、お二人の質問に適切に回答することができず、個別事業に対して深く検討できていなかったという、マネジメントとしての甘えを認識しました。改めて議論や調査を行い、最終的には実施で合意を取れましたが、その過程で大きく成長することができたと感じています。
対社内では、会社組織の感覚値や大事なステークホルダーである従業員の体験・インセンティブ構造に目線を合わせられるかが大事だと感じます。ファンドの投資時など変革期に社外から着任したCxOは、社内で昇進したCxOと比べて自社を客観的に見つめやすいと思います。一方、社内で昇進したCxOは長く会社の歴史を見ていることからこそ、社内で円滑に物事を進めるにはどうすれば良いかを熟知していますし、やはり人がついていきやすいという面はあります。その違いは日々痛感しており、社外から着任したCxOが特に努力しなければならない部分だと感じています。
[8]今、何を成し遂げたいとお考えでしょうか。
【吉田】:マテリアルグループは今IPOを見据えた第2創業期で、大きく飛躍を遂げていこうというフェーズにあります。私自身も能動的に考えて必要と判断したことは積極的に行動に起こすことで、マテリアルグループの飛躍にコミットしていきたいです。
【坂田】:近いうちに私もIPO準備業務に関与することになります。IPOという大きなマイルストンを見据えながら、日々の業務をしっかり確実に行っていきたいと思います。
[9]最後に、マネジメントポジションを目指す方にメッセージをお願いします。
【吉田】:マネジメントになると責任は重いですし、やらなければいけないことも多くて大変です。しかし、最後までやり遂げる意思を固く持つこと、誠実であることさえできれば怖くはありません。特に、私の様にプロフェッショナルファームから事業会社のマネジメントに転向される場合には、これまでとは全く違う環境・働き方の中で働くことになります。その中では、頭でっかちになっていた部分をそぎ落とすことも必要で、これは日々反省を繰り返しながらやっていくに尽きます。努力をすれば順応できますので、臆することはなく是非チャレンジしていただきたいと思います。