マーケットレポート(2023年1-3月)
CxOレポート
CxOマーケットレポート(2023年1-3月)
大手事業会社(日系/外資系)、PEファンド投資先企業、ベンチャー・スタートアップ企業におけるCxO採用のマーケット状況を四半期ごとに振り返る『CxOマーケットレポート』。今回は2023年1月-3月期のマーケット状況をまとめています。最新の動向を踏まえて注目テーマを取り上げるコラムでは「活発化する、DX人材採用」を取り上げました。
CxOとしてキャリアアップをご検討されている候補者の皆様はもちろん、採用担当の皆様も採用計画立案時のインプットに是非ご覧いただければ幸いです。
※弊社コンサルタントの実際の支援経験に基づいたレポートです。業界で言われる全体感とは内容が異なる場合があります。
〇目次
・2023年1月-3月期の採用動向
-大手事業会社(日系/外資系)
-PEファンド投資先企業(ミッド・スモールキャップ)
-PEファンド投資先企業(ラージキャップ)
-ベンチャー・スタートアップ企業
・【COLUMN】活発化する、DX人材採用
・おわりに
2023年1月-3月期は、大手事業会社では業種ごとの傾向が顕著に現れ、ラージキャップのPEファンド投資先では採用意欲の高まりが見られるなどの動きがありました。
以下、大手事業会社(日系/外資系)、PEファンド投資先企業(ラージキャップ/ミッド・スモールキャップ)、ベンチャー・スタートアップ企業について動向をご説明します。
・大手事業会社(日系/外資系)
今期、採用意欲は業界により傾向が分かれました。
報道の通り外資テック系を中心に採用見送りが相次ぐ一方、インバウンド需要の回復を背景として消費財・飲食・小売などのリテールビジネスでは採用意欲が高まりました。特に日系大手企業で、海外事業強化を見据えて積極採用を行う傾向がありました。
部門単位では、今期はセキュリティ関連のポジションの求人が増加傾向にありました。ここ最近個人情報流出に関する大きな報道が相次いだ影響で企業がセキュリティ意識を高めたものとみられます。
その他、日本企業での人事系(CHRO~部門長級)の採用ニーズも高まりました。各社従来の日本型人事からの脱却に伴い、外資的な戦略的人事やTalent Acquisition(戦略上必要な人材獲得)のニーズが高まったことから、外資系出身者を雇用するケースが多くありました。
昨今積極採用が続く、ESG関連、DX関連の求人も依然として活発でした。人材の供給状況は前期から大きな変動がみられませんでした。来期以降も同様の傾向が続くものとみられますが、各社世界経済動向や事業環境を見定めながら、採用方針を調整する可能性があります。
採用意欲は、前四半期と同水準を維持しましたが、新規投資を背景とした求人はあまり多くはなく、リプレイスメントや前任者の異動・昇格に伴う求人が多い傾向がありました。
経営者クラス、事業部長クラス、管理部長クラスと幅広いグレードで求人がありました。人材供給については前四半期と同水準を維持しました。
候補者の傾向として、若手人材の案件の選好志向が高まっていること、転職期間が短い候補者が増加傾向にあることなどがありました。そのため採用側(ファンド)は直近の職歴が短期である候補者をやや敬遠する傾向があるため、マッチング難易度は高い印象です。
当面、現在と同水準の採用意欲が維持されるものと見ています。1案件に複数ファンドが応札することも多く、全体的にファンドの投資意欲は慎重という印象はありません。
・PEファンド投資先企業(ラージキャップ)
新規投資の増加に伴い、採用意欲が高まっています。
現在の株価水準はラージキャップにとっては良好な市場環境であり、昨年後半から新規投資や上場企業カーブアウト案件の報道が相次いでいる通り、新規投資に積極的です。
特にニーズが高いのは、CFOとCHROです。要因の一つは上場企業カーブアウト案件の増加です。管理部門をシェアード化している上場企業が多く、カーブアウト後に管理部門の部門長クラスを自社で新規採用する必要があるためです。
ただ、カーブアウト後の企業では高度な戦略策定や、ゼロからの制度・組織設計、そしてファンドとの対話など、求められるレベルが非常に高くなっています。
また、昨今ファンドではスキルのみではなく、人材や仕事の進め方なども重視しており、面接だけではなく、実践的な試験、リファレンスを実施するなど非常に慎重に採用しているため、採用の難易度は非常に高いようです。特に、CHROでの採用に苦戦している印象があります。求人数が多くても、採用要件が高いためにひっ迫している状況が続いています。
人材の供給については、当四半期は決算発表が近いために動きは鈍化しましたが、先を見据えた情報収集を行う候補者も多く、決算発表が一服する6月以降活発になるものとみています。
来期以降についても、ラージキャップにとって良い市場環境が続いているために引き続き新規投資案件が増えるものとみられます。
また、ラージキャップも従来では投資を行わなかった中小規模のスタートアップなどにも投資の幅を広げています。そうした背景から、来期以降の採用意欲は今期と同等かそれ以上になるとみています。
※主要PEファンドの投資については、弊社ホームページでご確認いただけます。
https://www.careerinq.com/private_equity/news/
採用意欲は「スタートアップ冬の時代」と言われるものの、全体としては引き続き高い水準を維持しています。
しかし、分解すると傾向には差が出ています。ベンチャーキャピタルによる投資先企業の選定基準の厳格化が続く中で、資金が集まるスタートアップとそうではないスタートアップの差が拡大しています。
また、IPOの見送りが相次いでおり、IPO準備を行う「守りのCFO」の需要が緩やかに減少する一方、積極的な投資や資金調達を担う「攻めのCFO」の需要は高い水準が維持されています。候補者側でも「守りのCFO」人材が転職市場に出ることも多くなりました。
当四半期は決算期を見据えた時期であり、全体としては候補者の数は減少傾向にありましたが、スタートアップ人気が高まる中で来期には回復するものとみられます。来期も「スタートアップ冬の時代」は続き、採用も慎重に行われる傾向が強まるとみられます。
一方で候補者の数は増えるため、売手市場は和らぐとみています。
2022年は年間を通じて、そして今年に入ってからもDX(デジタルトランスフォーメーション)人材の採用が活発な状況が続いています。しかし、実際に各社の求人票を見ると、企業によって求める要件が大きく異なるようです。本コラムでは、DX人材採用の現状についてまとめました。
- ■DX人材は本来データやデジタルの知見のみではなく、経営の視点やチェンジマネジメントのスキルが必要。しかし、現在はIT・情報システム領域に留まる求人も多い。
経済産業省は『デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン』(2018年)において、DXを次のように定義しています。
DXを担う人材は、単にデジタルやデータの知識を持つだけでなく、ビジネスや経営を深く理解し、チェンジマネジメントをリードできる必要があります。しかし、実際のDXポジションの求人票を見ると求められるレベル感は様々です。ビジネス・経営視点を求める求人もあれば、デジタル・データ活用までに留まったり、情報システム・ITの領域に近い求人も多数あります。
そうした求人は、まだDXの知見・経験が蓄積されていない日系企業に比較的多い傾向にあります。
- ■経営視点も持つ人材のニーズが高まっているものの、市場には該当する人材はまだまだ希少。
徐々に企業の内部にDXの知見・経験が蓄積され、理解が深まる中で、本来あるべきDX人材、経営視点を持ちチェンジマネジメントができる人材を求める企業が増加しています。
一方で、そうした人材は現職で重宝され、引く手あまたなので転職市場に出てくることはほとんどありません。そのため、採用はヘッドハンティングによるものが中心となっています。主に以下のバックグラウンドを持つ人材が該当します。
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- ●システム開発企業やSIerで事業開発を経験し、早期に事業会社やメガベンチャーなど事業側でチェンジマネジメントの経験を積んだ人材
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- ●事業会社の情報システム部門を長く経験した後、社内異動でDXプロジェクトを経験した人材
- ●コンサルティングファームで多くの企業のDX推進を支援した経験を持つ人材
ただし、こうしたバックグラウンドを持つ人材でも、経験のレベル感やチェンジマネジメントのレベル感に大きな差があるため、私たちがヘッドハンティングをする際には、DXプロジェクトでの経験を徹底的にヒアリングします。
- ■今後の採用市場は、より役割が細分化する可能性が高い。
今後の採用市場において、DXがますます高度化し、ビジネスにおける存在感が高まる中で、DX人材の役割が細分化されるとみられています。
1-2年前は『DX人材』という漠然とした求人票が多く見られましたが、最近では例えばデジタルマーケティング担当や事業企画担当など、よりビジネスに紐づけられ、細分化された役割の求人が増加しつつあります。今後もその傾向が強まると見られ、それに伴って求人数もさらに増加するものとみられます。
- ■【番外編】今話題のChat GPTの影響は出てきている?
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昨年11月のChatGPTリリース以来、ジェネレ―ティブAIが大きな話題となっています。
現時点では採用への影響はみられていませんが、DXと密接な領域でもあるため、今後日本でも浸透が進む中で影響が出てくるとみられます。
ビジネスでAIを組み込んだプロダクトの開発が進んだり、業務の中でAIを活用する企業も多くなり、当然DX人材にはAIへの知見も求められるようになります。また、高度な「AIガバナンス」が求められるようになり、それを管掌するCRO(Chief Risk Officer)との連携が一層深くなるものとみられます。
【おわりに】
2023年1月-3月期のマーケット状況を受けて、弊社代表取締役社長の荒井裕之は次の通りコメントしています。
「今期は、GAFAでのレイオフ、シリコンバレーバンクの破綻やクレディスイスの破綻危機から、ChatGPTなどジェネレーティブAIの注目の高まりなど様々なニュースがありましたが、CxO採用に与える影響は現在のところ軽微です。ここしばらく、企業の採用意欲に大きな変化はない期が続いていましたが、今期は徐々に傾向が分かれ始めた印象です。いずれにせよ、各業態で採用に慎重な傾向が強まっています。CxOマーケットにおいては決算発表も終わり、退任発表も行われる6月以降に多くの候補者が動くと見られますので、来期以降に転職を検討中の方は是非一度ご相談をいただきたいと思います。」
弊社にはCxOポジションへの転職にご関心をお持ちの方に、求人の紹介だけではなく、直近動向などの情報も提供しています。今すぐの転職を考えていなくとも、ご関心がございましたら、是非一度ご相談をいただけますと幸いです。